前回に引き続き、今回も2サイクルエンジンの構造から、懸念される点について解説していきます。
2サイクルエンジンはクランクシャフトが回転する毎に爆発燃焼をしている構造上、その度に高温・高圧に晒されているピストンへの負担が著しく大きく、シリンダーとの気密を担っているピストンリングの摩耗や、さらに進行して誘発するピストンの首振り現象といった症状が発生しやすく、ピストンまわりの寿命が4サイクルエンジンと比較すると短くなります。
これと類似する事態がシリンダーにも該当し、ピストンの首振り症状が出始めた状態でピストンが上下運動を繰り返すと、ピストンスカートというピストンの下部がシリンダー内面と接触した状態で上下運動を繰り返すこととなり、金属同士の接触面が増加して擦れ合うことで、シリンダー自体の摩耗も促進されます。
シリンダーにおいても、4サイクルエンジンに比べると寿命は短いということになってしまいます。
【引用】http://shochan88nsr.blog120.fc2.com/blog-entry-938.html
また別の角度から分析すると、出力の面では優れていますが、それは単純に最高出力である馬力としての数値であり、実際にはその馬力がエンジンの回転数に応じてどんな感じで発生するのかという出力特性にも大きな問題を抱えているのが事実です。
これはエンジンの構造上どうしても4サイクルエンジンのようにフラットな出力特性が実現できず、エンジンの回転域全般において、どうしても1部分の回転域に出力が偏ってしまうという出力特性になってしまうからです。
これが「パワーバンドが極端に狭い」という特性で、エンジンがある回転数に達した途端に驚くほど急激なパワーを唐突に出力させる反面、エンジンの回転数が低い時やパワーバンドから外れている回転数の領域などでは、全く出力がないといったとても扱いづらい一面も併せ持っています。
つまり4サイクルエンジンのように低回転~高回転までエンジンの回転数に比例して徐々に出力を発揮し、誰にでも扱いやすい特性とは異なり、ピーキーでとても扱いづらいという特性を持っています。
これを解消すべく、各社が販売するエンジンには排気ポートにバルブを設け、それをコンピューター制御でコントロールし、排気ポートの断面積を回転数に応じて広げたり狭くしたりして吹き抜ける排気ガスの流量を調整することで、少しでもフラットな特性にさせる排気デバイスといった装置を取り付けています。
また、エンジン各所のセッティングをいろいろと変更するなど、さまざまな取り組みが行われてきた歴史はありますが、扱いづらい特性を解消することは不可能なのが実情です。
余談ですが…
1980年半ばから後半にかけて、二輪レースGP500で4度の世界チャンピオンを獲得した「エディ・ローソン」が、長年在籍したヤマハからホンダへ移籍し、ホンダのマシンに初めて乗った時に「このマシンは俺を殺す気か」と言った逸話があります。
【引用】http://hangoff.club/archives/3205
これはエンジンの基本設計や味付けが少し異なっただけで、そのピーキーな特性や癖が露骨に表れ、世界チャンピオンになるほどのテクニックを持った人でさえ、扱いが難しい特性を持っているということがとても伝わるコメントですよね。
確かに当時のホンダのマシンは、以前お話した特徴的な走り方をするフレディ・スペンサーの専用設計で開発されてきたようなマシンだったので、他のライダーが乗りこなすのは一苦労だったようです。
ホンダがその問題を見直して、扱いやすいマシン開発へ路線変更したのに伴い、当時セッティング能力に抜群の定評があったヤマハのワークスライダー「エディ・ローソン」を抜擢し、契約を獲得してホンダへ移籍してもらい開発への協力を仰いだそうです。
2サイクルエンジンが高出力である一面に対して、排気量が大きくなり出力が高まれば、誰でもが簡単に扱えずに万人受けしづらいエンジンだと分かっていただけましたか。
特にGP500のマシンは、車両重量が市販の中型バイクよりも軽量な車体に200馬力近いエンジンを搭載しているわけですから、世界中でも限られた人間にしか扱えなかったのが現実で、90年代に突入してもエンジンの進化は留まることなく開発され続け、もはや人間が扱える領域以上のマシンになってしまったことが大きな問題となりました。
これを解消するために馬力を活かしたまま、出力特性が容易に把握できて扱いやすいエンジンに仕上げる目的で、エンジンの点火方式を変更した「不当間隔位相同爆方式」という通称「同爆エンジン」と呼ばれる技術が開発され、各社が開発導入しました。
しかし、基本的な素性が大幅に変化するわけではなかったため、誰でも容易に扱える4サイクルエンジンと比較すれば、幅広い分野で使用するのは難しく、一般受けするエンジンというわけにはいきませんでした。
ちなみにこの同爆エンジン、通称「ビッグバンエンジン」は現代において4サイクルエンジンにも採用されている方式で、「ビッグバンエンジンとスクリーマーエンジンの優位性はどちらが高いのか?」という論争はこの時点から発生していました。
「ビッグバン?スクリーマー?それって何?」という質問が出てきそうですが、これはまたの機会に解説しようと思います。
話が脱線しましたが、これまでの解説から、出力では勝っても、操作性やエコとクリーンの面では、どうしても4サイクルエンジンに軍配が上がってしまうという点が2サイクルエンジンのデメリットです。
環境やエコロジーを重視した現代には、2サイクルエンジンは全く適していないということですね。
このような時代背景から2000年を境に、二輪のレース界では2サイクルエンジンが廃止となり、ほぼ同時期に一般に市販されるバイクや原付も環境面を考慮して、2サイクルエンジンを搭載した車種が完全に世の中から姿を消しました。
オートバイのメーカー自体も開発から完全に撤退して現在に至っています。
もはや絶滅危惧種に匹敵する2サイクルエンジンですが、小さくても高出力という一面を重視し、「小さなエンジン=小さな排気量 ⇒ 排気ガスも極少量+使用時間も極わずか=さほど環境に及ぼす影響は少ない」という考えから、とても小さなエンジンを搭載するチェーンソーや草刈機といった農機具などの一部の機械には、未だに使用され続けて存在価値を見出しています。
今回で「2サイクルエンジンと4サイクルエンジン」の解説はおしまい。
全8回にわたるかなりのボリュームでしたが、これは自動車を語る上では基本中の基本。知っておいて絶対に損はしないと思いますよ。
次はどんなお話をしようかな…それではまたの機会に!