前回はエンジンまわりの部品の点検についてお話しました。
今回はトラクターの使用前点検の締めくくり。各部をしっかり確認しましょう。
<その⑧>タイヤ
エンジンの調子がどんなに良くてもタイヤに問題があればナイスな仕事が出来ません。
ここでは意外と見落としがちなタイヤについての点検を解説します。
まずは外観を確認して下さい。
上部写真(左)のタイヤは山もまだまだ残っていますし、素晴らしくコンディションが良いタイヤです。
しかし上部写真(右)のタイヤはどうでしょう?
タイヤの山はまだ残っていますが、赤矢印の部分は表面がバリバリにヒビ割れしているのが分かります。
こうなったらタイヤの山がまだ残っている以前の問題。近年多くの機種に採用されているチューブレス(内部にチューブが入っていないタイプ)のものだとこのヒビ割れからエアー漏れが発生しているかも…タイヤの強度自体も著しく低下している恐れがあります。
こんな状況で気付かずに使用していると、農作業中に突然パンクといったトラブルに見舞われる可能性もありますね。「タイヤは生モノ」という言葉があるように、ゴムで出来ているため性質上どうしても年数が経過すると紫外線等の影響で劣化が起こり、表面が硬化してヒビ割れが発生してしまいます。
タイヤの外観チェックをする際、山の残量だけに目が行きがちですが、それだけではなくタイヤのヒビ割れにも目を向けて点検して下さい。
外観に異常がなければお次は空気圧の点検です。
本来の点検はエアーゲージを使用して正確に測定するのがベストですが、ここでは誰にでも手軽に出来る目視での点検をご紹介します。
空気圧不足に気付かず使用しているケースを多く見受けられるのが実情…
そこでまずは基本中の基本、正常に空気が入っているかを目視で確認します。空気圧が適正な状態でしたら上部写真(左)のような感じになっているはずです。しかし、空気圧不足だと上部写真(右)のようにタイヤの下側が潰れているのが確認できると思います。赤矢印の部分が完全に潰れているのが確認できますよね?
どんなタイヤでも少しずつジワジワと空気は抜けていくもので、これは車も農機具も同じことが言えます。つまり数年前にタイヤを交換してから何にもしていなければ、空気は減っているのが当たり前!
しかし、最近空気を入れたのに、数日で写真(右)のように潰れている。そんな時はパンクしている可能性が大いに疑えますので、早急に最寄りの農機センターへお問い合わせ下さい。
使用前には空気圧をチェックして未然にトラブルを防ぎましょう。
これを読んでいる皆さんの中には、空気をご自身で充填されている方もいるのでは?
充填する際に注意する点は、ズバリ「適正な空気圧」
少なすぎても問題ですが、多過ぎも同様にNG!
では適切な空気圧は?
それはタイヤの側面をご覧下さい。赤丸で囲んでいるのと同様の刻印がタイヤ側面に発見できると思います。
ここをよ~く見ると適正空気圧がちゃんと記載されています。つまりこの数値に合わせて空気の充填をすればいいんです!
ちなみに空気圧を計測するエアーゲージ。
これも使い古した物や粗悪な製品だと、表示される数値が不確かな場合があります。
自動車の整備業界の話になりますが、工場によっては正確な空気圧を測定するため、定期的にエアーゲージの更正を実施して表示される数値の誤差を極力少なくするように努めているところもあります。
○タイヤの外観チェックをしたけど良く分からない
○コンプレッサー等の空気の充填機器を持っていない
○エアーゲージで空気圧を確認したい
○手持ちのエアーゲージが正確なのか不安
そういう方は迷わずに最寄の農機センターへ依頼して下さい。優秀なスタッフが迅速丁寧に対応をいたします。
<その⑨>前側ギヤケースのオイル漏れ
今まで点検したポイントは比較的見慣れた部分で取っ付き易い部分でもありましたが、ここから少しマニアックなところの点検をしていきましょう。
トラクターの前側から上部写真(左)の赤矢印の方向に下まわりを覗き込んで下さい。
するとタイヤの裏側の構造が上部写真(中)のようになっていると思います。
さてここからが点検の始まりですが、まずは写真(中)の赤丸で囲んだ付近をチェックして下さい。
前側のギヤケースからはオイルが漏れていることが多く、ホイールの内側(写真(中)下側の赤丸)やギヤーケース(写真(中)上側の赤丸)にベットリとオイルが付着している場合があります。
いずれにしてもこの場合はギヤケースまわりからのオイル漏れが疑えます。そのまま気付かずに使用していると、最悪の場合、内部のギヤまで損傷という二次災害を誘発してしまい、高額な修理代を要することも懸念されるので、そうなる前に早急な修理をオススメします。
オイル漏れが大丈夫であれば、次は摺動部分にグリスUPを行います。
上部写真(右)の赤矢印の部分に、小さなおへそみたいなグリスニップル(グリス注入口)が見えると思います。これは機種やメーカーにより様々ですが、大半の機種には同様のポイントにニップルが存在するはずです。
そこへグリスガンを使用してグリスを注油して下さい。ニップルは左右対称に存在するので、右側が終わればお次は左側。手が入りにくい場合は左右どちらかへハンドルを切り、タイヤを動かして作業空間を確保して下さい。
ここで大切なポイントが一つ。それは注油量です。
注油すればするほどベスト!と思い、大量に注油されている方がいますが、これは大きな間違い。
ある程度注油していると余分なグリスが隙間からブニュッとはみ出てきます。重要なのはそうなった(少しはみ出た)時点で止めること。それ以上注油しても外側にはみ出てグリスを無駄にするだけで、摺動部の潤滑効果には全く意味がありません。むしろ大量にはみ出たグリスで周囲がベトベトになり、後の点検でオイルが漏れてんだか、グリスがはみ出てんだか判断が困難になっちゃいます。
それどころか高粘度のグリスが大量にはみ出したまま使用することで、埃や砂が大量に付着し、それらが原因で別のトラブルを誘発する恐れもあります。薬剤投与と一緒で何事も適量が最適だということですね。
ご自身でグリスUPをしたいけどグリスガンを持っていない方へ朗報!
各農機センターではグリスガンも取り扱っており、あなたの機種に最適なグリスガンをスタッフがチョイスしてご提供いたします。これを読んでグリスUPに興味を持たれた方は、ぜひご相談を…
<その⑩>ロータリー
ここではトラクターで一番の肝となるロータリーまわりの点検を解説します。
皆さんもロータリーや爪は常に意識していると思いますが、点検方法をおさらいしておきましょう。
まずはロータリーを最上限まで上げて下さい。
その状態で後ろ側から内部にあるシャフトをチェック。
そこに草やマルチシートの残骸が絡み付いていれば全て取り除いて下さい。
ここで重要なのは赤矢印の部分!左右の両端をよく確認して下さい。
この部分は両端のギヤケースに繋がっています。
そのつなぎ目の隙間に異物が巻き付いて絡み込んでいると、内部にあるシールを痛め、最悪ベアリング等の破損にも発展しかねません。どうしても隙間の異物が除去できない場合は、無理せずに農機センターまでお問い合わせください。
内部の点検が終われば次はギヤケースの点検です。
赤丸部分(ギヤケース)の最下部をチェックして下さい。
この部分は知らず知らずの間に土や畔に接触する頻度が多いため、穴が開いていたり擦れてペラペラになっていたりすることがよくあります。
そのため、赤丸部分にはケースを保護する目的でガードが取り付けてありますが、これの損傷に気付かず使用してケースにまで穴を開けてしまうケースも頻繁に見受けられます…
一般的なトラクターでは、乗って左側にロータリーを駆動するギヤが存在しますので、特に写真と同様の左側は念入りにチェックする事をオススメします。
ロータリーの本体が終われば皆さんにも馴染み深い爪の点検です。
写真では分かり易いように爪を外していますが、実際には取り付けた状態で点検します。
爪の基準はズバリ一言「擦り減ったら交換」です。
写真左側の爪はもう使用限度に達しています。右側の爪と比較すればその差は歴然!
信じられないかもしれませんが、元々これは全く同じ製品なんです。
つまり使用しているとここまで爪がすり減って細くなってしまうんですね。とても同じ物とは思えない…
ちなみにこの写真。
この爪は限界を大幅に通り越しています。新品に交換した際の爪の厚さなんて、とっくに頭から消えている方が大半で、このような状態で使用している方が多いのも実情なんです…
こんな爪では綺麗に耕せず、最良な土作りにも支障を来たしちゃいますよね?
爪の交換基準は農地の土壌差や面積等の違いから人それぞれで、一概に○○時間なんて基準は存在しません。ハッキリ言うと見た目で判断します。
爪の交換時期が良く分からないという人は、最寄りの農機センターまでお問い合わせを…
ご依頼があれば優秀なスタッフがあなたの元へ駆けつけて、その場で○×を即答いたします。
また農機センターでは爪も取り扱っておりますので、ご自身で交換される方もご相談下さい!もちろん交換もお引き受けいたします。
<その⑪>最終チェック
ここまで来たら点検も大詰め!最後にブレーキのチェックをします。
今までの点検項目に異常がなくても、ブレーキに異常があれば本末転倒。ここでは簡単にできるブレーキの点検を解説します。
点検方法は実際に踏んでみること、これに限ります。
今までと比べて踏みしろがやたら深い、効きがあまい等の異常を感じれば、そのまま使用せずに早急にご相談を。ブレーキの異常は大事故につながりかねませんから…
ここでポイントを一つ。
皆さんも周知の通り、トラクターのブレーキは左右独立しています。点検の時にはこのペダルの連結を解除し、赤矢印のように、必ず独立させた状態で左右のペダルを踏み比べて下さい。
その際に「ペダルの遊び」「踏みしろ」この二つがほぼ同じなら問題なし。
しかし左右のどちらかに差を感じるようでしたら、ブレーキの左右バランスが悪くなっている可能性大です。異常を抱えたまま、左右連結した状態でブレーキを踏むと、左右のバランスに差が発生し、急激に左右どちらかへトラクターが振られる等の危険性があります。
ブレーキは非常に重要な項目です。少しでも異変を感じたら絶対にそのまま使用せず、最寄りの農機センターまでお問い合わせ下さい!
これまでトラクターの使用前点検についていろいろと解説してきましたが、どうでしたか?
これを機に、今まで気に留めていなかったポイントにも目を向けて、快適で高効率な農作業と事故防止に役立てていただければ幸いです。
「メカはちょっと…」「時間的に余裕がなくて…」「歳をとるとひざが辛くて…」
点検項目も多いですし、なかなかハードルが高いように感じる方もいらっしゃいますよね。
そういう方はJAえひめ中央の各農機センターへぜひお問い合わせを!
農機センターではシーズン前の点検を随時承っております。優秀なスタッフによる迅速丁寧な対応で満足していただけること間違いなし!皆さんのご利用を心よりお待ちしております。
快適な営農ライフを。